「原チャリ」時代に幕が下りようとしています。
6月22日、読売新聞オンラインより、ホンダが50cc以下の原付(原付一種)の生産を2025年5月に停止すると報じました。
今後ホンダ以外の各社も生産停止すると思われ、いよいよ日本から50cc以下の新車の原付が店頭から姿を消そうとしています。
いったいバイク業界で何がおきているのか?今回は日本で愛され続けた原付(原付一種)を特集したいと思います。
「原付一種」「原付二種」「中~大型バイク」の違い
まずバイクの種類を解説します。
原付(原動機付自転車)には「原付一種」と「原付二種」があり、今回姿を消そうとしているのは「原付一種」です。中型、大型バイクも含めたそれぞれの違いは以下の通りです。
原付一種バイク | 原付二種バイク(小型) | 中型、大型バイク | |
---|---|---|---|
排気量 | 50cc以下 | 50cc超~125cc以下 | 125cc超~ |
法廷速度(一般道) | 時速30km | 時速60km | 時速60km |
二人乗り | 不可 | 可 | 可 |
二段階右折 | 必要 | 不要 | 不要 |
高速道路の走行 | 不可 | 不可 | 可 |
車体価格 | 安い | 中 | 高い |
維持費 | 非常に安い | 安い | 高い |
50cc以下の原付一種はなぜ消えるのか?
排気量50cc以下の原付(原付一種)が新車市場からなくなる理由は、2025年11月に原付一種が「新たな排ガス規制」の対象になることで、製造メーカー各社が排ガス基準をクリアできず、生産を中止するためです。
新たな排ガス規制は「令和2年排出ガス規制」と言われ、この規制は世界で最も厳しい排出ガス規制といわれるヨーロッパの「EUR05」と同等といわれています。
「令和2年排出ガス規制」は2022年11月より施行されましたが、50ccクラスは2025年10月末までの3年間適用が延期されていました。
適用後は、国内で50cc以下の原付を新規に製造することができなくなります。
規制はクリアできないのか?
過去自動車業界は何度も排出ガス規制を技術力でクリアしてきました。今回も技術力で規制をクリアできないのでしょうか?
実は規制のクリアは”技術的には可能”と言われています。ではなぜ生産を停止してしまうのでしょうか?
理由は主に次の2つがあります。
- 50cc原付の販売台数減少
- 開発コスト増による販売価格の上昇
ひとつずつ見ていきましょ。
50cc原付の販売台数減少
「一般社団法人 日本自動車工業会」のデータよると、50cc以下の原付の販売台数は1980年代に約200万台を記録しています。しかしその後は減少を続け、2020年には約12万台と大きく減少しました。
頼りの海外市場でも50ccの需要は縮小しているため、国内でも販売台数が減少している50cc以下の原付は、すでに日本だけのガラパゴス規格になってしまいました。
さらに最近では電動自転車やEVバイク、電動キックボードなども登場し、数キロ程度の移動であればこれらで事足りるようになったため、今後50cc以下の原付が売れる見通しが立たなくなっているのが現状です。
開発コスト増による販売価格の上昇
排気ガスの浄化をおこなうには、一般的にはマフラーにキャタライザー(触媒)を組み込みます。
このキャタライザー(触媒)は高温にならなければ機能しないため、排気量の小さな原付では温度を上げることができないという技術的な課題があります。
そのため「令和2年排出ガス規制」をクリアするためにはこのキャタライザー(触媒)を大きくするなどの対策が必要になりますが、このキャタライザー(触媒)には高価なレアメタルを使用するためコストがかかってしまいます。
さらに「令和2年排出ガス規制」より、排ガスを浄化する装置の劣化を監視する装置「車載式故障診断装置(以下:OBDⅡ)」の搭載が義務付けられました。このOBDⅡを搭載すると車両価格が高額になることが予想されます。
以上のことから技術的にはクリア可能な基準ですが、メーカーが原付一種を生産しても採算がとれる可能性が低いため、今後各社は原付一種の生産を順次停止していくことになります。
今後の車両はどうなる?
今後の車両はどうなるのでしょうか?
警視庁の有識者検討会は2023年12月21日、「二輪車車両区分見直しに関する有識者検討会」の報告書を公表しました。
それによると、「最高出力を4kW以下に制御した総排気量125cc以下の二輪車を、現在は総排気量50cc以下に限られている一般原動機付自転車に新たに区分することを検討」としています。
要約すると、「125cc以下のバイクのパワーを制御して、50ccとして乗る」ということです。そして報告書は次のようにまとめられています。
- 最高出力を制御した新基準原付は、加速度が抑えられることなどで、現行原付と同程度に容易かつ安全に運転することができるため、両者を同じ運転免許区分とし、併せて同じ車両区分とすることが適当
- 最高出力を制御する機構が不正に改造されないよう、汎用の工具では出力制御部のカバーを取り外しできないような特殊な構造にしたり、電子的な制御と組み合わせたりといった不正改造防止措置を講ずる
- 完成車状態でも最高出力が測定できるように関係団体で検討を行う
- 小型自動二輪車との区別がつくように外見上の識別性を確保する
- 出力を制御していない小型自動二輪車までも原付免許で運転できるようになったとの誤解が生じないよう、周知に努める
原付免許はどうなる?
「二輪車車両区分見直しに関する有識者検討会」の報告書によると、125㏄以下で最高出力を原付きバイク程度に抑えたものは原付きバイクと同じ車両区分とし、原付き免許で乗れるようにすることが適当、と結論付けられました。
最高出力をおさえた新しい基準のバイクについては、出力を変えるような不正改造がされないような構造にするほか、ナンバープレートの色を現在の50cc以下と同じ白色にし、見た目で見分けがつくようにしたいとしていて、警察庁は今後道交法の施行規則を改正する方針です。
まとめ
今回の排ガス規制によって「原付一種が廃止される」といったうわさがありましたが、原付一種の制度そのものは存続し続けます。
そして今後は125ccクラスの車体を原付免許で乗る人が増えていくことになりますが、125ccクラスの車体は50ccの車体より若干大きいため、小柄な方の場合は足つきが悪くなる可能性もあります。
2025年に入れば駆け込み需要などで新車の50ccの原付が手に入らなくなる可能性もあることから、現行の50ccの原付が必要な方は今のうちに購入しておくのが得策かもしれません。
今まで愛され続けたものがなくなる寂しさはありますが、今後はさらにワクワクするようなバイクが登場するかもしれません。
そんな期待を込めてこの記事を終わりたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
<参考>
Car Watch
motor-fan
マイナビニュース
グーバイク
一般社団法人日本自動車工業会
ヤフーニュース
読売新聞オンライン
<8/30追記>
警視庁は2024年8月30日、小型オートバイ(総排気量50cc超125cc以下)のうち速度がでないよう最高出力を抑えた車体について、2025年4月1日から原付バイクの運転免許で運転できるようにする方針を明らかにしました。