今回は近々上場がウワサされるシンスペクティブ(Synspective)の特集です。
6月18日、宇宙関連ニュースが飛び込んできました。
2020年代に小型衛星30基のSAR衛星コンステレーション構築を目指している「シンスペクティブ(東京)」が、衛星打ち上げを手掛ける米航空宇宙会社「ロケット・ラボ」と、2027年までに小型衛星10基の打ち上げに合意したと発表がありました。
打ち上げに多額の費用がかかる事が予想できるだけにIPO(新規上場)するのか気になるところです。
また、すでに上場している類似企業「QPS研究所」との違いはなんなのか?今回は宇宙関連企業シンスペクティブ(Synspective)を深掘りしていきたいと思います。
シンスペクティブ(Synspective)とは?
シンスペクティブ(Synspective)とは、小型SAR衛星の開発、運営を手掛ける宇宙ベンチャー企業です。
同社はSAR衛星を使用して、地形やインフラ設備の撮影をおこない、災害時などの状況把握などのために政府機関や民間企業向けに衛星からの画像を解析するサービスを提供しています。
今年1月の能登半島地震では衛星画像を無償で公開しました。
SAR衛星とは
SAR衛星とは、「天候に左右されず24時間地表を観測できる人工衛星」のことです。
現在、地球観測衛星の主流である光学衛星では、夜間や雨天時は地表の観測ができません。
しかしSAR衛星はレーダーを地表に照射し観測するため、夜間や雨天時でも地表の観測を行うことができます。
SAR衛星は電波を対象物に向けて照射し、反射した電波を検出し画像化。雲やスモッグも透視可能で、夜間でも利用できるため、台風や地震などの災害時でも地形データを取得することが可能。
現在、地球観測データの取得において主流である光学衛星の課題を解決できるとして各国が開発に力を入れています。
世界トップクラスの開発スピード
シンスペクティブは、このSAR衛星をわずか3年たらずで3機の打ち上げ、放出に成功し、日本初の商用SAR画像を実現しました。
短納期とコスト削減を実現するため、JAXAや各大学の宇宙専門家が開発した技術を取り入れているそうです。
今後の計画
シンスペクティブでは現在、小型SAR衛星コンステレーションの構築を目指し、大規模に製造する体制を急ピッチで進めています。具体的な計画としては…
「2020年代後半までに30機の小型SAR衛星コンステレーションの構築を目指す」
としています。
そのために、宇宙産業の専門知識と、航空機、自動車、家電分野の専門家の融合を行い、大手自動車会社や宇宙関連大手企業と提携することで、衛星の開発をしながら大量生産の準備も進めているとのことでした。
スピード感のある資金調達
シンスペクティブが行う衛星の開発や量産体制の推進には多額の費用がかかります。
IPOを行っていないシンスペクティブですが、その資金調達は目を見張るものがあります。
まず2019年に、設立からわずか17ヶ月で1億ドルの資金調達に成功しています。これは宇宙関連のスタートアップとしては世界最速となりました。
さらにその後、2022年3月に追加の1億ドルの資金調達に成功。
したがって、シンスペクティブは2022年3月時点で、設立からわずか4年で合計2億ドル(約228億円)の資金調達に成功したことになります。
上場(IPO)するのか?
シンスペクティブは、今後高確率で上場すると考えられます。
上場を予測する根拠は、資金調達先にあります。
シンスペクティブの資金調達は「第三者割当増資(第三者に株式を買ってもらい増資する)」によって行われています。
主な出資元は次の通りです。
- 損害保険ジャパン株式会社
- 森トラスト株式会社
- 日本グロースキャピタル投資法人
- 宇宙フロンティアファンド
- ジャパン・コインベスト3号投資事業有限責任組合
- SBIグループ…etc
IPO投資に詳しい方であればお気づきかもしれませんが、出資先のほとんどがベンチャーキャピタル(VC)です。
VCは、未上場企業に出資をおこない、株式を取得します。その後、出資先が上場(IPO)にこぎつけた場合に株式を売却し、利益を出すビジネスモデルの企業です。
よってVCが出資しているシンスペクティブは上場する可能性が高いと言えます。
類似企業「QPS研究所」との違いは?
すでに上場している類似企業、「QPS研究所」(以下QPS)との違いを解説します。
QPSは、九州大学発のスタートアップ企業です。2023年12月6日にIPOを行いました。シンスペクティブ同様、小型SAR衛星の運用、開発を行っています。
シンスペクティブとよく似ていますが、大きく違う点は次の3つです。
- 高分解能能力
- 移動体への対応
- 安全保障分野への対応
高分解能能力
QPSのSAR衛星は、50センチ以下の高分解能ですが、シンスペクティブのSAR衛星は100センチとなっています。
移動体への対応
QPSのSAR衛星は、土地や建物などの”静止体”だけでなく、車や船舶、さらには人や家畜などの”移動体”をデータとして蓄積できるようになっています。
国や安全保障分野への依存度
現段階において、QPSの売上高の大半は内閣府です。取得した画像データは国の安全保障などに用いられています。一部報道によると、今後はさらに他分野への展開が予定されているようですが、いずれも国の関係省庁のようです。
一方シンスペクティブも政府機関へデータ提供しているものの、あくまでも“商用”をうたっており、企業はもちろん個人でも画像データを取得できるのが特徴です。
まとめ
シンスペクティブもQPSも現在の運営は赤字経営で先行投資段階です。
しかし宇宙関連は成長分野であり、シンスペクティブに関しては小型SAR衛星の機数増加にともなって収益が改善していくと思われます。
IPO時は大きな期待を集めるでしょう。
<参考>